詐害行為取消権に関して相当価格処分行為をした場合の民法424条の2が新設されています。
民法424条の2の条文について
民法424条の2の条文は、以下のとおりです。
債務者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、受益者から相当の対価を取得しているときは、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。
一 その行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下この条において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
二 債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
以下、この424条の2について解説します。
相当価格処分行為
424条の2は、詐害行為取消権の相当価格処分行為について規定しているものと言われています。
例えば、債務超過状態になっている人が所有する不動産を相当な価格(時価)で売却した場合に、詐害行為取消権の対象になるかという問題です。
不動産だけでなく、動産でも問題になり得ます。
ただ、不動産は数千万円や数億円単位のものが少なくないですが、動産はそこまで価値のあるものはまずないので、詐害行為取消権の対象になりにくいと思います。
判例の考え方
改正前の判例は、不動産を売却する行為について、相当な価格(時価)であっても、原則として詐害行為取消権の対象になり得るものとしていました。
なぜなら、不動産が金銭に換わることによって、費消・隠匿しやすくなるからです。
ただし、抵当権を消滅させるための弁済資金の調達を目的とした不動産の売却は詐害行為にならないとした最高裁判決昭和41年5月27日のように、不動産売却の目的・動機が正当なものである場合に例外的に詐害行為に該当しないものとしていました。
判例のルールを変更する改正
新設された民法424条の2は、このような判例のルールを実質的に変更するものです。
つまり、不動産等を時価で処分する相当価格処分行為については、原則として詐害行為にならないものとし、例外的な要件を満たす場合にはじめて詐害行為になるものとしました。
破産法上の否認権については、経済的危機の状態にある者と取引する相手方が否認権行使を過度におそれて取引が困難になることにならないように、否認権行使の要件を明確にし、相当価格処分行為については否認権行使が限定的に認められていました。
424条の2は、破産法上の否認権の規定(破産法161条1項)に合わせることになり、ほぼ同内容の規定になっています。
なお、破産法の否認権は、不動産の処分のみ問題となり、動産の処分は対象にならないとされています。
424条の2の具体的内容
424条の2は、以下の要件の全てを満たす場合に詐害行為取消請求ができるものとしました。
①債務者が隠匿、無償の供与等をして債権者を害する処分をするおそれを現に生じさせること
②債務者が行為当時、隠匿、無償の供与等の債権者を害する処分をする意思を有していたこと
③受益者(取引相手)が行為当時、債務者が隠匿、無償の供与等の債権者を害する処分をする意思があることを知っていたこと
取引相手が債務者の親族等であった場合
破産法上の否認権については、相当価格処分行為の取引相手が債務者の親族等であった場合について、上記③の意思が推定される旨を規定しています(破産法161条2項)。
今回の民法改正において、同様の規定を設けることが検討されましたが、あまりに規定が細かくなるということで見送られました。
この点について、詐害行為取消権でも、破産法の上記規定の類推適用や事実上の推定により、破産法と同様の考え方をとるべきという見解があり、今後の判例の集積が待たれます。
経過措置
改正附則19条において、施行日(令和2年4月1日)より前に債務者の詐害行為が行われた場合は、改正前の民法の適用を受けることが規定されています。