今回の改正で、債権者代位権の転用についての民法423条の7が加わりました。
条文について
民法423条の7は、以下の規定です。
登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記手続又は登記手続きをすべきことを請求する権利を行使しないときは、その権利を行使することができる。この場合においては、前3条の規定を準用する。
以下において、解説していきます。
債権者代位権の転用についての判例
民法423条の7は債権者代位権の転用について規定しているものです。
債権者代位権の転用とは、本来の債権者代位権が債務者の財産の保全を目的としているのに対し、債務者の財産の保全を目的としていない場合に債権者代位権の行使が認められる場合のことです。
これは、判例上認められてきたものです。
判例は、以下のような場合に債権者代位権の転用を認めてきました。
①登記請求権の代位行使。
DがEに不動産を売却したが、Eに所有権移転登記がされないまま、EがFにその不動産を売ったものの、FがEに登記を自己に移転するよう請求してもDもEも協力しない事例。FがEのDに対する登記請求権を代位行使することが認められます。
②債権譲渡通知請求権の代位行使。
GがHに対する債権をIに譲渡し、Iがその債権をJに譲渡した。しかし、GがIへ債権譲渡した旨の通知をHに出さず、IもGに通知を出すよう請求しない事例。Jは、IがGに対して債権譲渡した旨の通知を出すように請求する権利を代位行使することが認められます。
③賃借人による妨害排除請求権の代位行使。
土地所有者KがLに土地を賃借したところ、Mが土地を不法占有していたが、Kが何もしようとしない事例。Lは、KのLに対する妨害排除請求権を代位行使ることが認められます。
なお、対抗要件を備えた不動産賃借人は、賃借権に基づき妨害排除請求できることがその後の判例で認められ、改正後の民法605条の4で明文化されています。
他にも債権者代位権の転用が認められた事例はありますが、代表的なものは上記の事例です。
そして、判例は、それまで金銭債権の債権者だけが債権者代位権を行使できるとされていたところ、転用事例では金銭債権者であることは必要ないものとし、また債務者の無資力の要件も不要なものとしました。
423条の7の規定
423条の7前段は、これらの債権者代位権の転用の事例のうち①の事例について、債権者代位権の行使が認められることを条文化(明文化)したものです。
登記・登録によって対抗要件になる財産(不動産、自動車、船舶など)を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記・登録の手続請求権を行使しないときに、その権利を行使することができるというものです。
そして、423条の7後段は、①の事例において、相手方の抗弁に関する423条の4、債務者の取立て・債務者への履行に関する423条の5、債権者代位権についての訴訟告知に関する423条の6の規定が準用される旨を規定しています。
423条の7の意味
423条の7は、判例で債権者代位権の転用が認められていた①の事例について債権者代位権の行使が認められることを確認し、その場合のルールとして準用される条文を明確化したものです。
事例①についての判例のルールをはっきりさせたものといえます。
他方で、他にどのような場合に債権者代位権の転用が認められるかについては、規定しておらず、判例の解釈に委ねているといえます。
基本的に、これまでの判例を変更するものではないと思いますので、これまで認められてきた上記の転用の事例についても、債権者代位権の行使は認められるものと思います。
なお、今回の改正の議論のなかで、一般論として債権者代位権の転用がどのような場合に認められるかのルールを条文化することが検討されましたが、合意に至らず、見送られました。
経過措置
附則18条2項において、施行日の令和2年4月1日より前に発生した譲渡人の第三者に対する請求権については、423条の7は適用されない旨が規定されています。