代償請求権について規定する民法422条の2が新設されています。
条文
民法422条の2の条文は、以下のとおりです。
債務者が、その債務の履行が不能となったのと同一の原因により債務の目的物の代償である権利又は利益を取得したときは、債権者は、その受けた損害の額の限度において、債務者に対し、その権利の移転又はその利益の償還を請求することができる。
新設された条文は、判例上認められている代償請求権を明文化したものです。
以下、解説したいと思います。
代償請求権
代償請求権とは、債務が履行不能になった場合で、その履行不能になったのと同一の原因によって債務者が権利・利益を得たとき、債務の目的物に代わる権利・利益を債権者が債務者に請求する権利のことです。
民法422条の2が規定しているものが、まさに代償請求権といえます。
ただ、分かりにくいと思いますので、代償請求権を認めた裁判例の具体的事案を説明したいと思います。
代償請求権を認めた判例
代償請求権を認めた最高裁判決昭和41年12月23日の事案は、以下のとおりです。
Gは、自己の所有する土地について、Hがその土地上に建物を建ててパチンコ店を営業することを認め、Hが建築費を負担する代わりに1年間は土地を無償で使用できることとし、1年後に建物の所有権をGに移転し、GがHに有償で賃貸するという契約を締結しました。
契約の際、Hは、Gに対し、敷金を支払っていました。
ところが、建物完成して間もなく原因不明の火災で焼失しました。
Hは、火災保険に加入していたため、火災保険金を受領しました。
HはGに対し敷金の返還を請求したところ、GはHが火災保険金を受け取っており、その利益をGに支払う義務があるため、債権債務を相殺することで敷金返還義務は消滅した旨を主張しました。
最高裁は、「一般に履行不能を生ぜしめたと同一の原因によつて、債務者が履行の目的物の代償と考えられる利益を取得した場合には、公平の観念にもとづき、債権者において債務者に対し、右履行不能により債権者が蒙りたる損害の限度において、その利益の償還を請求する権利を認める」と判示し、明文のない代償請求権を認めました。
Gは支払われた火災保険金の利益について、Hの損害の限度で支払う義務を負うことになり、それを前提としたHの相殺の主張が認められたものです。
422条の2の規定内容
422条の2は、この判例により認められた代償請求権を条文として明記したものです。
要件について
代償請求権が認められる要件について、判例の考え方から変更していないと思います。
民法改正の議論のなかで、履行不能について債務者に帰責事由がある場合は、債権者が債務者に対して損害賠償請求をすることができるので(民法415条)、代償請求権を認める必要はないのではないか、ということが議論されました。
中間試案では、代償請求権が認められるのは、履行不能について債務者に帰責事由がない場合とすることが示されましたが、代償請求権と損害賠償請求権の両方を認めても不都合はないはずなどの意見が出たため、債務者の帰責事由がないことを要件として明記しないことになりました。
最高裁判例も、代償請求権を認める場合について、債務者の帰責事由の有無を問わない考え方をとっているようです(最高裁判例解説民事篇昭和41年度参照)。
代償請求権が認められる「目的物の代償である権利又は利益」が何に含まれるかについては、最高裁判例のような火災保険金、第三者に対する損害賠償請求権などです。
効果について
代償請求権が認められることにより、債権者は、「その権利の移転又はその利益の償還を請求することができる。」と規定されています。
利益の償還とは、債務者が得た利益について金銭的な請求をすることです。
権利の移転とは、債務者が保険会社に対して有している保険金請求権、第三者に対して有している損害賠償請求権をそのまま債権者に移転させることを要求することができることです。
この場合、債務者に対して対抗要件の具備も要求できます。
このような効果が認められていることから、債権者が債務者に帰責事由があるため損害賠償請求権を有する場合でも、代償請求権を認める意味があります。