民法(債権法)改正の解説72 [民法420条] 賠償額の予定

賠償額の予定について規定している民法420条が改正されています。

条文について

改正前の民法420条の条文は、以下のとおりです。

1 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。
2 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
3 違約金は、賠償額の予定と推定する。


改正後の民法420条の条文は、以下のとおりです。

1 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
2 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
3 違約金は、賠償額の予定と推定する。


民法420条2項、3項については、改正前のままで変更されていません。

以下で、民法420条について解説したいと思います。

賠償額の予定

民法420条は、賠償額の予定についての規定です。アパート.jpg

賠償額の予定とは、当事者間で債務不履行になった場合の損害賠償の金額を合意しておくことです。
一般的には、契約書や約款において賠償額の予定の条項が入れられていることが多いです。

アパート・マンションの賃貸借契約書において、借主が契約終了後も明け渡さない場合に、その損害賠償金を家賃と同額としたり、家賃の2倍にしたりする規定がありますが、賠償額の予定に該当します。

また、金銭の借入の契約書のなかで、約定利息より高額な遅延損害金の利率が決められていることがあります。これも賠償額の予定です。
利息制限法において、約定利息の1.46倍を超える遅延損害金の利率にすることが規制されています(約定利息の1.46倍を超えた部分は無効となります。)。

賠償額の予定の合意をしておくことで、当事者双方が債務不履行になった場合の金額をあらかじめ把握することができます。

債権者の側からすれば、高額な賠償額の予定をしておくことで、なるべく債務不履行の事態を防ぐことができます。
また、債権者は、損害額を立証しなくてもあらかじめ決めた賠償額を得ることができます。

債務者の側からすれば、低額の賠償額の予定をしておくことで、高額な賠償のリスクを防ぎ、リスクの管理を容易にすることができます。

ただし、いずれも行き過ぎになると、相手方が不利益を被ることになるため、裁判所が賠償額の予定の全部または一部を無効とすることがあります。

それから、前述した利息制限法のように、特別法において、賠償額の予定について規制していることがあります。
消費者契約法は、平均的な損害額を超える金額での賠償額の予定を無効としています。

420条1項について

420条1項は、賠償額の予定が有効であることを規定しています。
賠償額の予定の金額を超える損害が発生した場合でも、賠償額の予定の金額の賠償しか認められないものと解されています。

改正前の条文では、1項後段で「この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。」と規定されていました。
この規定からすれば、不当に高額といえる賠償額の予定でも、裁判所が減額させることはできないように読めます。

しかし、実際の裁判例において、不当に高額な賠償額の予定については、信義則等を理由に、一部または全部が無効とされ、減額されたものがあります。

10億円超の土地の売買契約において、売買金額の2割の賠償額の予定が定められていたところ、買主が債務不履行によって契約を解除して2億円超の賠償を請求したところ、裁判所は、信義則上約6800万円の賠償が妥当であるとしました。

このような裁判例があること、不当な賠償額の予定については全部または一部を無効にする余地を認めるのが妥当であることから、改正後は420条1項後段が削除されることになりました。

420条2項について

420条2項は、賠償額の予定があっても、損害賠償ではなく、履行請求や契約解除をすることができる旨を規定しています。

これは当然のことを確認している規定と言われています。

なお、契約のなかで、債務不履行があった場合に、履行請求はできずに、損害賠償しかできないという規定があれば、基本的に契約が優先されるものと思います。

420条3項について

420条3項は、違約金の定めがある場合、賠償額の予定と推定することを規定しています。

違約金の定めについては、賠償額の予定の場合と違約罰の場合が考えられます。

違約罰の場合は、違約罰の金額の請求に加えて、実際の損害額の賠償請求もすることができるというものです。
違約罰を明確に認めた規定は民法上ありませんが、違約罰の定めも、公序良俗や信義則に反するような不当なものを除き、有効と考えられています。

ただ、違約金の定めは、違約罰ではなく、賠償額の予定と推定されるというのが3項の規定です。

経過規定

附則17条4項は、施行日(令和2年4月1日)より前に賠償額の予定が定められた場合は、改正前の民法の適用を受けるものとしています。

ただし、改正前の420条1項後段は、既に実効性を失っているところがありますので、あまり影響はないと思われます。

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