過失相殺を規定している民法418条が改正されています。
条文
改正後の民法418条は、以下のとおりです。
債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。
これに対し、改正前の民法418条は、以下のとおりです。
債務の不履行に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。
この民法418条について解説したいと思います。
過失相殺について
民法418条は、債務不履行における過失相殺の規定です。
民法418条の過失相殺とは、債務不履行において債権者に過失があった場合にその過失分が損害賠償額から控除されることをいいます。
例えば、路線バスの運転手の過失により交通事故が起き、乗客が怪我を負ったため、乗客はバス会社に債務不履行に基づく損害賠償を請求できるところ、その乗客はふざけてバスの中で逆立ちをしていたときに事故に遭い、一人だけ転倒して背中を床に打ち付けて骨折したとします。
このように債務不履行により損害を被った債権者に過失がある場合、この過失分が例えば40%と評価されれば、損害の40%が引かれて60%分しか賠償されないことになります。
治療費や慰謝料等の損害額の合計が100万円の場合、40%の過失がある債権者は60万円しか請求できないことになります。
このように当事者間の衡平のために認められたのが過失相殺です。
債務不履行だけでなく、不法行為の場合にも民法722条2項で過失相殺が認められています。条文の形式が若干違いますが、内容的にはほぼ同様です。
先ほどの例のように乗客が怪我した場合は債務不履行になりますが、自動車が他人の歩行者を轢いてしまった場合には不法行為しか問題になりません。
したがって、交通事故の過失相殺は、不法行為の民法722条2項の適用になる場合が多いです。
ただし、債務不履行の過失相殺では、「責任」を定める過失相殺もあると規定されていることから、債権者の過失が重大な場合、債務者の責任を否定することも可能と言われており、そのようなことまで認めていない不法行為の過失相殺とは異なるといわれています。
また、債務不履行の場合は「定める。」と規定されて裁判所の裁量ではなく過失があれば必ず過失相殺されるのに対し、不法行為の場合には「定めることができる。」と規定されて裁判所の裁量によるということもいわれています。
改正された点
民法418条については、若干の改正に止まっているといえます。
改正前は「債務の不履行に関して債権者に過失があったとき」と規定されていたのが、改正後に「債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったとき」と変更されました。
つまり、損害の発生・拡大に関して債権者に過失があったときも、過失相殺の対象になることが明示されたのです。
この点については、改正前の時点でも、判例実務で、債務の不履行そのものに関して債権者に過失があったときだけでなく、損害の発生・拡大に関して債権者に過失があった場合も、過失相殺が認められていました。
上述した事例も、事故そのものに乗客に過失はなく、損害の発生・拡大について乗客に過失があるものです。
このような場合にも、過失相殺が認められるべきことは言うまでもありません。
以上のように、418条については、改正前の判例実務の運用が明記されたものであり、実質的な変更とはいえないと思います。
なお、法制審議会での議論のなかで、債権者の過失ではなく債権者の損害軽減義務という概念を前面に打ち出した改正試案が提案されましたが、そのような改正は見送られました。