民法(債権法)改正の解説66 [民法415条1項] 債務不履行の損害賠償

債務不履行の損害賠償について規定している民法415条が改正されています。

改正後の415条は、1項と2項が設けられているところ、重要な415条1項を解説したいと思います。
415条2項は、別に解説します。

改正後の415条1項

改正後の415条1項の規定は、以下のとおりです。

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。


改正後の415条1項は、改正前の415条の規定を基本的に受け継いでいます。
改正前の415条は、2項がなく、一つだけの条文でした。

改正前の415条

改正前の415条は、以下のとおりです。

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも同様とする。

債務不履行による損害賠償請求

改正後の415条1項も、改正前の415条も、いずれも債権者が債務者に対して債務不履行による損害賠償を請求できる場合を規定しています。
改正後の415条1項は、改正前の415条についての判例の考え方を明確化したものといえます。
したがって、改正前後で実質的な内容に変更はないものと思います。

そして、債務不履行については、以下の3種類があると言われています。
①履行遅滞
②履行不能
③不完全履行

①履行遅滞

履行遅滞とは、債務の履行期を過ぎても履行を怠っていることです。家賃遅れ.jpg

例えば、毎月末日にアパートの賃料を支払わなければならないのに、支払わないまま翌月になってしまった場合には履行遅滞になります。
5万円の賃料で4万円支払った場合でも、全額支払わなければ履行遅滞になります。

履行遅滞については、民法412条が詳しく規定しています。

②履行不能

履行不能とは、債務を履行できないことです。

例えば、中古車を売った後に、火事で中古車が全焼してしまった場合は、履行不能です。

履行不能については、新設された民法412条の2が詳しく規定しています。

③不完全履行

不完全履行とは、債務は一応履行されたものの、履行内容が不完全だったり、問題があったりするものです。
不完全履行については、契約によって様々なものがあり、これを一般的に規定したものはありません。

例えば、不良品を売ってしまった場合は、通常、不完全履行になります。

債務不履行による損害賠償請求の要件

債務不履行による損害賠償請求が認められるための要件は、上記3種類のいずれかの債務不履行の事実の損害以外に、以下の2つです。

①損害が発生していること、その損害が債務不履行と因果関係があること
②債務者に帰責事由があること

このうち、①については、民法416条が詳しく規定していますので、416条で解説します。

②債務者に帰責事由があることについては、民法415条1項ただし書きに規定されています。

債務者の帰責事由について

415条1項ただし書きは、契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして、債務者に帰責事由がないときは債務不履行による損害賠償請求が認めらないことを規定しています。
つまり、債務者に帰責事由があることが債務不履行の要件であるといえます。

この規定には、大きく2つの意味があります。

1つ目は、帰責事由の有無の判断については、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」行うということです。
これは、個々の契約について、債務の発生原因である契約等の性質、目的、締結に至る事情等の諸事情に加えて、取引上の社会通念も含めて、債務者に帰責事由があるかどうかを判断するということです。

2つ目は、債務者に帰責事由がないことが免責事由になることです。
帰責事由については、債権者が債務者に帰責事由があることを主張・立証しなければならないのか、逆に、債務者が自分に帰責事由がないことを主張・立証すれば免責されるのかという点が問題になっていました。
これについて、判例実務は、債務者が自分に帰責事由がないことを主張・立証すれば免責されるものと解釈していました。
すなわち、債権者は、債務者に帰責事由があることを主張・立証する責任を負わないということです。

改正点

今回の改正点は、以下のとおり、3点あります。

1点目は、改正前の415条では、帰責事由が履行不能にしか明記されていませんでしたが、他の債務不履行でも帰責事由が要件として問題になることが明確になりました。
これは、改正前の判例実務の解釈を維持しています。

2点目は、改正前は債務者に帰責事由があることを債権者が主張・立証する責任を負っているかのような体裁になっていましたが、上記のとおり、債務者が免責される要件であることが明確になりました。
これも、改正前の時点で、その形式的な記載とは異なり、判例実務が解釈により債務者が免責される要件であると解釈していましたので、実質的な変更ではありません。

3点目は、債務者の帰責事由の有無について、上述したとおり、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断することが明確になりました。
これも、改正前の判例実務の解釈を踏襲したものといえます。

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