履行遅滞中・受領遅滞中の履行不能について規定する民法413条2が今回の改正で追加されています。
民法413条の2の条文
民法413条の2の条文は、以下のとおりです。
1 債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
2 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
この413条の2は、今回全く新しく設けられた条文です。
1項と2項は、適用される場面が異なりますので、それぞれについて、解説したいと思います。
413条の2第1項について
413条の2第1項は、特殊な状況を想定しているものです。
履行遅滞となっている間の履行不能
それは、債務者が履行遅滞となっている間に、当事者双方の責めに帰することができない事由で履行不能になった場合に、債務者が債務不履行責任を負うかどうかということです。
413条1項は、そのような場合に、履行の不能は、債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなすと規定しており、債務者が債務不履行責任を負うものとしました。
例えば、Aが中古車屋Bで、中古のスポーツカーを購入し、1か月後に納車となっており、中古車屋Bが古いタイヤを新品のタイヤに取り替えることになっていたところ、整備が間に合わず、納車期限に間に合わず遅滞の状態になっていた間に、落雷で車庫が火事になり、そのスポーツカーが全焼で修理不可能になってしまったとします。
これは、債務者が履行遅滞となっている間に、誰の責めにも帰することのできない事由で履行不能になったものです。
そして、413条1項によれば、債務者中古車屋Bの責めに帰すべき事由による履行不能とみなされ、中古車屋Bは債務不履行責任を負います。
つまり、Bは損害賠償等の責任を負います。
解釈上の問題
それから、解釈の余地がある問題として、履行遅滞と無関係に履行不能になった場合にも、債務者が債務不履行責任を負うかという問題があります。
この点について、建物を貸した者が借りた者の賃料延滞という債務不履行によって契約を解除したが、建物が返還されない状態のままでいたところ、建物が放火によって焼失したことを理由に貸主が借主に損害賠償を請求した事案で、東京地裁判決昭和49年12月10日は、遅滞がなくても損害が発生した場合には債務不履行責任を負わないと判示し、請求を棄却しました。
下級審の判断ですが、履行遅滞と無関係な履行不能の場合には、債務者は債務不履行責任を負わないという解釈は、改正後も踏襲されているのではないかと思われます。
改正前の解釈
今回の改正前は、413条の2第1項のような規定は一切ありませんでした。
ただし、古い判例で、413条の2第1項と同じ結論を判示したものがあり、多くの学説にも支持されていました。
したがって、改正前と改正後で運用に変更があるわけではなく、一般的に支持されていた判例の解釈が明文化されたものです。
413条の2第2項について
413条の2第2項は、1項と似ていますが、想定されている状況は異なります。
受領遅滞中の履行不能
受領遅滞中に、当事者双方の責めに帰することのできない事由によって履行不能になった場合に、どうなるかということです。
1項は、履行遅滞中でしたが、2項は受領遅滞中です。
先ほどの例と近いですが、Cが中古車屋Dから中古車を購入し、納車日にDが納車しようとしたところ、Cが難癖をつけて納車を拒否したことにより、Dが自社の車庫に保管していたところ、落雷で車庫も中古車も焼失してしまったというのが、413条の2第2項の事案です。
413条の2第2項は、このような事案で、履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす旨を規定しています。
そうすると、以下のような結論になります。
1. 債務者は、履行不能について債務不履行責任を負わず、損害賠償責任を負わない。
2. 債権者は、契約を解除することができない。
3. 債権者は、代金の支払い(反対給付)を拒むことができない(民法536条2項)。
結局、Cは、中古車の代金を全額支払わなければならないが、焼失した中古車の代わりになるものを受け取ることはできないということです。
つまり、中古車が焼失した損害をCが全て負担するということになります。
Cにとってはかわいそうな気がしますが、そもそも受領遅滞をしたCが悪いということです。
解釈上の問題
第1項と同じように、受領遅滞とは無関係に履行不能になった場合がどうなるかという問題がありそうです。
この点については、あまり論じられておらず、今後の判例の集積が待たれるものと思います。
改正前の解釈
413条の2第2項のような規定は、改正前の民法にはありませんでした。
しかし、一般的に、受領遅滞の効果として、危険負担における危険の移転ということが言われており、上記のような結論になることが認められていました。
したがって、改正前後で結論は変わらないものと思われます。
第2項も、これまでの運用を条文に明記することで、分かりやすい民法を目指したものといえます。