不能による選択債権の特定について規定している民法410条が改正されています。
選択債権
選択債権とは、数個の給付の中からの選択によって債権が特定されるものです。
例えば、東京大学に合格したら、ハワイ旅行か、パソコンか、自転車のどれかをプレゼントしてあげるという契約が、選択債権です。
選択債権は、実際にはあまり見ることがなく、重要性は高くありません。
誰が選択する権利(選択権)をもつかが重要なところ、法律上は債務者に属すると規定されています(民法406条)。上記の例だと、プレゼントする側が債務者です。
ただし、あくまで任意規定であり、当事者間で選択権をもらう債権者側で合意することも可能です。
その意味で、当事者間の合意では選択権を有する者が明確に決まっていない場合は、債務者に選択権を認めることにしたのが法律の趣旨ということになります。
改正前の410条
改正前の410条は、以下の規定でした。
1 債権の目的である給付の中に、初めから不能であるもの又は後に至って不能となったものがあるときは、債権は、その残存するものについて存在する。
2 選択権を有しない当事者の過失によって給付が不能となったときは、前項の規定は、適用しない。
改正前の410条では、選択肢のうち初めから給付不可能なものや後で給付不可能になったものがある場合、原則として残存する選択肢で債権が特定することにしています(1項)。
初めから不能(原始的不能)な債権は無効とするのが、改正前の民法の考え方でした。
例外的に、選択権を有しない者の過失によって給付が事後的に不能になったときは、残存する選択肢に当然なるのではなく、不能になった債権も選択肢に含まれることになっています(2項)。
例えば、選択権を有するのが債務者であり、債権者の過失によって履行不能になった場合、債務者が不能になった債権を選ぶと、債務者の責めに帰すべき事由のない履行不能になって、債務者は債務を免れることができることになります。
また、選択権を有するのが債権者であり、債務者の過失によって履行不能になった場合、債権者が不能になった債権を選ぶと、債権者は債務者の債務不履行による履行不能として損害賠償請求をすることができることになります。
したがって、不能になった選択肢を残し、これを選択することで有利になる場合があるのです。
改正後の410条
この410条が改正され、以下の規定になりました。
債権の目的である給付の中に不能のものがある場合において、その不能が選択権を有する者の過失によるものであるときは、債権は、その残存するものについて存在する。
改正前よりシンプルな規定になっています。
実質的な内容も含め、以下の点で変更されています。
原始的不能についての記載がなくなったこと
今回の改正において、原始的不能の債権を無効とする考え方を採用しないことにしたため、「初めから不能」や「後に至って不能となった」という区別を設けることがなくなりました。
単に「不能」とだけ記載されることになりました。
不能の債権を選択できる場合が広くなったこと
改正前は、不能の債権を選択できるのは、選択権を有しない当事者の過失によって給付が事後的に不能になった場合だけでした(2項)。
しかし、不能になった債権を選択することで選択権者にとって有利になることがあり、これを認めても選択権を有しない者の負担が不当に重くなるわけではないという指摘がされました。
そこで、選択権を有する者の過失によって不能になった場合、その者が不能の債権を選択するのは不当であるから、この場合は残存する債権に特定されるものとし、それ以外の場合は、広く不能の債権を選択できることにしました。
上記のとおり、原始的不能の債権を無効とする考え方をやめたため、原始的不能の債権を選択することも認めることにしました。
2項は削除されたこと
そして、上記変更に伴い、2項は削除され、410条は一つの条文だけになりました。