遺言執行者の法的地位に関連して争いのあったところについて、明確化するための法改正が民法1015条においてありました。
民法1015条の規定
改正前の民法1015条は、以下の規定でした。
遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。
それが、改正後の民法1015条は、以下のようになりました。
遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。
改正前の規定内容
改正前の民法1015条は、形式的な解釈をすると、遺言執行者の法的地位が、相続人の代理人と考えるのが自然な規定となっていました。
しかし、遺言執行者が単に相続人の代理人だとすると、相続人の利益を害する遺言があった場合に、遺言執行者が相続人の利益を第一に考えるべきとなり、遺言を無視すべきことにもつながってしまい、妥当な解釈とは思われないものでした。
なぜなら、遺言者が遺言執行者をわざわざ指定しようとするとき、相続人の利益を害する遺言であることが理由である場合が一定程度あるからです。
そのような場合には、相続人に任せられないから、遺言執行者を指定しようとするわけです。
したがって、最高裁は、遺言執行者の任務は遺言者の真実の意思を実現するためにあると判示し、相続人の利益を害する遺言であっても遺言を実現することができるものと判断しています。
改正後の内容
そこで、今回の相続法改正において、誤解を招きやすい改正前の民法1015条の文章を変更することにしたものと思われます。
そして、改正によって、遺言執行者の行為の効果が相続人に帰属することになるという表現になりました。
また、その要件として、遺言執行者の行為がその権限内であること、遺言執行者が遺言執行者であることを示して行為をしたことが必要であることも明記されました。
これまでも、遺言執行者の行為は、これらの要件を満たして行われていたものと思われます。
このように、民法1015条の改正は、これまでの運用が変更されるわけではなく、これまでの最高裁判例に基づく運用を民法の条文上も明確化することを目的としたものと思います。
つまり、実質的変更はないということです。