特定物の引渡しの注意義務に関する民法400条が改正の対象になっています。
改正後の400条
改正後の400条の条文は、以下のとおりです。
債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
この規定は、契約などにより特定物を引き渡す義務を負う者が、その物を保存している間の注意義務の程度を規定したものです。
特定物とは
特定物とは、物の個性に着目して契約等の対象となっている物です。
通常、不動産や骨董品、絵画、中古車は、特定物とされます。
これに対する概念が、同じ種類の物であれば良く物の個性が問題とならない種類物です。
スーパーマーケットで売っている牛乳や醤油、デパートで売っている衣類(一点物は除きます)、電気屋で売っている電化製品などは全て種類物です。
そして、世の中に流通している物の大半は種類物であり、特定物は中古品、芸術品、不動産のように限られています。
善管注意義務とは
そして、この特定物に該当する中古車の売主のように、特定物を引き渡す義務を負う者は、契約時から、買主に引渡しするまでの間、「契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって」、その物を保存する義務を負うことが規定されました。
この善良な管理者の注意をする義務を善管注意義務といいます。
この義務に違反して、特定物が毀損するなどした場合は、債務不履行責任(損害賠償責任)を負うことになります。
善管注意義務と対比されるものが、自己の財産に対するのと同一の注意の義務です。
これは無報酬の受寄者(民法659条)などに課される義務であり、善管注意義務より程度の軽い義務です。
つまり、無報酬の受寄者は、無料で物の保管を受けた者であり、そのような者は自己の財産と同じ程度の注意をはらえば良いのです。
他方で、善管注意義務は、取引通念上要求される十分な注意をしなければなりません。
改正前の条文との比較
改正前の民法400条は、以下のとおりでした。
債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
改正後の条文と基本的内容は変わりませんが、改正前は「契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる」という記載がありませんでした。
改正前の条文については、善管注意義務の内容に関し、契約の目的などに関係なく客観的に注意義務の内容が決まるように見え、またその内容が分かりにくいという批判があり、これを受けて改正されることになったものです。
上記文言が追加される改正の結果、特定物の保管に関する注意義務については、契約その他の債権債務の発生原因に関する一切の事情を考慮し、取引通念に照らして、注意義務が定まることが明確になりました。
この点に関しては、基本的に、改正前からある解釈を明記して分かりやすくするための改正であり、実質的内容には変更がない改正であると思われます。
経過措置
改正後の400条は、施行日である令和2年4月1日以降に債権が生じた場合に適用されるものです。
したがって、令和2年3が月31日以前に債権が生じた場合、つまり契約した等の場合には、改正前の400条の適用となります。