民法(債権法)改正の解説56 [民法398条の3] 根抵当権の被担保債権の範囲

根抵当権の被担保債権の範囲を規定している民法398条の3が改正されています。

改正後の民法398条の3は、以下の規定です。

1 根抵当権者は、確定した元本並びに利息その他の定期金及び債務の不履行によって生じた損害賠償の全部について、極度額を限度として、その根抵当権を行使することができる。
2 債務者との取引によらないで取得す手形上若しくは小切手上の請求権又は電子記録債権を根抵当権の担保すべき債権とした場合において、次に掲げる事由があったときは、その前に取得したものについてのみ、その根抵当権を行使することができる。ただし、その語に取得したものであっても、その事由を知らないで取得したものについては、これを行使することを妨げない。
 一 債務者の支払の停止
 二 債務者についての破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始の申立て
 三 抵当不動産に対する競売の申立て又は滞納処分による差押え

この398条の3は、根抵当権で担保される債権(被担保債権)の範囲を規定しています。

極度額を限度とすること

根抵当権は、継続的な取引に基づく債権を一定の範囲で丸ごと担保することができるものです。

その者との一切の債権を全て包括的に根抵当権の対象とすることはできません。
その範囲の決め方については、398条の2で規定されており、取引の種類を特定する等になります。

そのような特定をした上で、極度額として具体的金額をあらかじめ決め、その金額が根抵当権の対象となる上限になります。
398条の3第1項でそのことが規定されています。

例えば、5000万円の時価の土地について、極度額を4000万円として根抵当権を設定した場合は、極度額4000万円が優先弁済されることになります。

これにより、残りの1000万円分を別の債権者の債権の担保として第2順位の根抵当権や抵当権を設定することができ、土地の価値を最大限に活用することができます。

債権の利息、遅延損害金等について制約がないこと

また、398条の3第1項で、確定した元本、利息その他の定期金、債務不履行による損害賠償金の全部が根抵当権の担保とされることが規定されています。
債務不履行による損害賠償金は、通常金銭債権が被担保債権になるので、遅延損害金になります。
ただし、極度額を超えることはできません。

この点、抵当権では、民法375条で異なる規定になっています。
つまり、抵当権の場合は、民法375条で、利息や遅延損害金について通算で最大2年分しか担保されません。
なぜかというと、そのようにしないと、長期間の遅延損害金がかなりの高額になり、それが被担保債権になることがあり得るため、一度抵当権が設定されると、残りの価値を活用することが難しくなるからです。

これに対し、根抵当権の場合は、あらかじめ極度額という明確な金額が決められることから、他の者にとって残りの担保価値を計算することが容易であり、その額さえ超えなければ他の者を害することはありません。
したがって、根抵当権では、極度額の範囲で、利息や遅延損害金の全部が担保され、抵当権のような制限がありません。

手形・小切手・電子記録債権についての制限

民法398条の3第2項は、手形・小切手・電子記録債権について、根抵当権で担保される場合に一定の制限をしています。手形.jpg
電子記録債権とは、手形と同じような機能を持つ電子的に記録した債権です。平成19年に電子記録債権法という新しい法律が制定されて認められました。

手形・小切手・電子記録債権については、直接の取引・契約がなくても、債務者と取引をしている者から手形などを譲り受けることで、債務者への手形債権などを取得することがあり得ます。

例えば、AがC所有の土地についてCの手形債務・売買債務を被担保債権とする極度額5000万円の根抵当権を有していた場合に、3000万円の売掛債権を有していたところ、Cが破産手続開始の申立てをしたとします。
BはCへの1000万円の売掛債権についてCから約束手形をもらっていましたが、根抵当権などの担保権は有していませんでした。
Cが負債総額30億円で破産したことにより、Bの手形債権は紙切れ同然です。

ところが、Aはまだ2000万円の残余のある根抵当権を有してるため、Bから1000万円の約束手形を譲り受けた場合に、これが根抵当権で担保されれば、確実に4000万円の債権について回収できます。
紙切れ同然の1000万円の手形を持っているBと余裕のある根抵当権を有しているAが話し合って、BがAに約束手形を500万円で売れば、双方が得することになります。
しかし、これを認めると、他の一般債権者や後順位の担保権者が損害を受けます。
したがって、このような卑怯な債権回収を否定したのが民法398条の3第2項です。

改正部分

改正前の条文と改正後の条文は基本的に同じ内容です。

代わったのは、第2項において、電子記録債権の記載が追加されたことだけです。

電子記録債権は、手形と同様の機能を持つため、規制の対象とする必要があると考えられたものです。

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