根抵当権に関する民法398条の2が、改正されています。
改正後の398条の2
改正後の民法398条の2は、以下のとおりです。
1 抵当権は、設定行為で定めるところにより、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度内において担保するためにも設定することができる。
2 前項の規定による抵当権(以下「根抵当権」という。)の担保すべき不特定の債権の範囲は、債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるものに限定して、定めなければならない。
3 特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権、手形上若しくは小切手上の請求権又は電子記録債権(電子記録債権法(平成19年法律第102号)第2条第1項に規定する電子記録債権を言う。次条第2項において同じ。)は、前項の規定にかかわらず、根抵当権の担保すべき債権とすることができる。
この398条の2の条文が、根抵当権に関する最初の規定です。
根抵当権とは
根抵当権とは、例えば、銀行がある会社に貸金をする場合に、貸金ごとに会社所有の土地に抵当権を設定するのではなく、あらかじめ会社所有の土地に根抵当権を設定しておくことで、その後に発生する貸金も含め継続的な取引から生じる債権の担保とすることのできるものです。
普通の抵当権は、その担保される債権が完済によって消滅することで、一緒に抵当権も消滅します。これを附従性といいます。
根抵当権は、一つ一つの債権が消滅しても、消滅せずに残り、将来的に発生する債権の担保として機能するため、継続的な取引が行われる場合に、とても便利な担保です。
そのため、銀行が会社に融資する場合に、根抵当権が使われることがとても多いです。
398条の2第1項
398条の2第1項が、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するという根抵当権を認めている規定です。
根抵当権は、債権者の側にとって非常に都合の良い権利であるため、398条の2第1項において一定の制限をしています。
一つは、根抵当権を設定する最初の時点で、極度額を決める必要があります。
極度額とは、根抵当権の対象となる債権の限度額であり、この額を超える部分の債権は担保しないというものです。
極度額が必要ですので、債権金額無制限の根抵当権というものは認められません。
もう一つは、全ての債権を根抵当権の被担保債権とする包括根抵当を禁止しています。
同項で、根抵当権の対象を「一定の範囲」に限定することを規定しています。
398条の2第2項
この第2項で、根抵当権の対象とする範囲の決め方を規定しています。
条文上、「債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるものその他債務者との一定の種類の取引によって生ずるものに限定して、定めなければならない。」と規定されています。
特定の継続的取引契約によって生ずるものとは、実際に特定の基本契約を締結し、その基本契約に基づいて継続的な取引がされる場合に、その基本契約上の債権を根抵当権の対象とするものです。
根抵当権の登記上、「令和2年4月13日付自動車部品売買基本契約」というように根抵当権の範囲が特定されます。
債務者との一定の種類の取引とは、銀行取引、自動車部品売買取引というように、取引の種類で範囲を特定するものです。
基本契約はあっても、なくても構いません。
実務的には、取引の種類で特定することが多いです。それは、契約で特定するよりも、広い範囲を対象とすることが可能で、柔軟な対応が可能なことがあると思われます。
398条の2第3項
第3項は、第2項以外にも、根抵当権の範囲を定める方法を認めています。
一つは、「特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権」です。
これは、2項で特定の継続的取引契約・一定の種類の取引によって範囲を決めることを認めており、そのような契約・取引がない者同士でも、特定の原因に基づいて継続して生ずる債権を根抵当権の範囲とすることを認めています。
例えば、空港の騒音の被害者が空港に対して継続的に損害賠償請求権を取得する場合に、これを根抵当権の範囲とすることができるといわれています。
ただし、取引関係・契約関係がない者同士で、根抵当権の設定がされることはあまりないと思います。
次に、「手形上・小切手上の請求権」です。
手形や小切手の場合、2項で規定されているように、手形取引・小切手取引という範囲で根抵当権を設定することは可能ですが、流通している手形・小切手を取得したことで債権債務関係が生じることがあるため、広く「手形上・小切手上の請求権」という形式で根抵当権を設定することが認められています。
さらに、第3項は「電子記録債権」です。
電子記録債権は、平成20年に施行された電子記録債権法によって認められた新たな債権の形です。
「でんさい」とも言われています。
簡単に言えば、これまで紙で発行されていた手形を電子的に記録して、同じ機能を果たすようにしたものです。
紙で発行される手形は紛失・盗難のリスクがありましたが、そのようなリスクがなくなっています。
また、電子的に記録されることで、二重譲渡のリスクもなくなっていると言われています。
手形と同じ機能をもっている関係で、根抵当権の対象範囲として定めることが認められています。
3項が一部改正されていること
今回の改正で、民法398条の2の1項と2項は変更されていません。
変更されているのは、3項です。
3項について、電子記録債権の記載が新たに加わったのが改正点になります。
電子記録債権が新たに認められたことによる改正であり、基本的な考え方に変更はないものといえます。