債権質の設定と証書の交付について規定していた改正前の民法363条が削除されるという改正がなされています。
改正前の民法363条
改正前の民法363条は、以下の条文でした。
債権であってこれを譲り渡すにはその証書を交付することを要するものを質権の目的とするときは、質権の設定は、その証書を交付することによって、その効力を生ずる。
民法363条は、「第9章 質権」、「第4節 権利質」のなかに規定されています。
この権利質の対象になるのは、債権や、所有権以外の物権(地上権や永小作権など)です。
改正前の363条は、債権質のうち、債権を譲り渡すのに証書を交付することを必要とする証券的債権についての規定でした。
同条は、債権の譲渡に証書を交付する必要がある債権に質権を設定する場合、その証書の交付により、質権の効力が発生する旨を規定していました。
改正による削除
今回の改正によって、363条は削除されました。
そして、363条は空文になっています。
363条のような証券的債権に関する規定は、改正後、「第7節 有価証券」に集められました。
条文としては、520条の2~20として新設されています。
改正前は、証券的債権と有価証券の概念の相違について、学説上の争いがありました。
ただ、有価証券とは別の証券的債権という概念を認めたとしても、実際上は、証券的債権に該当するものはほとんどないとされました。
そこで、今回の改正では、証券的債権に関する規定はなくなり、代わりに、有価証券に関して整理した規定を設けることになりました。
これに伴って、改正前の363条は削除されたのです。
改正後の規定
改正前の363条を受け継いでいる規定は、改正後の520条の17、520条の20です。
同条で、記名式所持人払証券・無記名証券に質権を設定する場合は、その効力を生じさせるには、証券の交付が必要とされています。
記名式所持人払証券とは、債権者を指名する記載がされている証券であって、その所持人に弁済をすべき旨が付記されているもののことです。
一般的な小切手は、記名式所持人払証券です。
無記名証券は、商品券や鉄道の切符などです。
このように、改正前の363条は、今回の改正で削除されているものの、それを実質的に受け継いだ新設の条文により従前のルールが維持されているといえます。