民法359条が、今回の民法改正で、形式的な部分ですが、変更されています。
改正後の民法359条
改正後の民法359条の規定は、以下のとおりです。
前3条の規定は、設定行為に別段の定めがあるとき、又は担保不動産収益執行(民事執行法第180条第2号に規定する担保不動産収益執行をいう。以下同じ。)の開始があったときは、適用しない。
この359条は、「第9章 質権」の「第3節 不動産質」のなかで規定されています。
以下において、解説していきたいと思います。
不動産質について
不動産質とは、不動産を担保とする方法の一つです。
基本的に、担保にする時点で、債権者に不動産を引き渡し、債権者が不動産を使用収益する権利を有するものです。
江戸時代には、田畑を不動産質として借金の担保にすることが行われ、債権者は田畑の収穫物を自己の利益として得ることができるというので、広く利用されていたと言われています。
不動産質について、356条、357条、358条で、以下のように規定されています。
①不動産質の担保権者は、不動産を使用収益をすることができます(356条)。
②その代わり、不動産質の担保権者は、不動産管理の費用その他の不動産に関する負担を負います(357条)。
③不動産質の担保権者は、使用収益から利益が得られるので、債権の利息を請求することができません(358条)。
しかし、現代では、農地法で農地の質権設定に農業委員会の許可等を必要としており、また農地の収穫物から債権を回収するというのはいかにも面倒です。
また、農地以外の宅地などでも、債権者が使用収益するというのは面倒なことが多く、担保を設定する所有者も、自ら使用できない状態での担保設定を望まないため、あまり利用されていません。
現代は、不動産を担保にする場合のほとんどは、抵当権が利用されています。
抵当権は、担保権を設定した所有者が引き続き使用し、債務の支払が滞った場合に、強制的に売却して、その代金から債権者が優先的に回収するものです。
359条の規定内容
359条は、上記の356条、357条、358条の例外を認めた規定です。
つまり、質権を設定するときに356条~358条と異なる合意をしたときは、合意が優先され、356条~358条は適用されないと規定しています。
したがって、質権者が自ら使用収益しないしないことにしたり、質権者が不動産管理の費用を負担しないことにしたり、質権者が利息も請求できることにしたりすることも合意で可能ということです。
加えて、担保不動産収益執行が開始された場合についても規定しています。
担保不動産収益執行とは、抵当権者等が不動産の賃料などの収益から配当を受けて債権回収をすることができる手続です。
平成15年の民事執行法の改正で新たに認められたものです。
それまでは、抵当権者は不動産を競売にかけてその売却代金から回収するしかありませんでした。
バブル崩壊により、不動産の価値が暴落したことから、賃料等からの回収により多額の債権回収をはかる道が開かれたものです。
359条は、不動産質より先順位の抵当権があった場合に、その抵当権で担保不動産収益執行が開始されると、不動産質権者が自ら使用収益できなくなるため、不動産管理の費用を支払う必要がなくなり、債権の利息を請求することができることを規定しています。
改正前の359条
改正前の359条は、「前3条の規定は、設定行為に別段の定めがあるとき、又は担保不動産収益執行(民事執行法(昭和54年法律第4号)第180条第2号に規定する担保不動産収益執行をいう。以下同じ。)の開始があったときは、適用しない。」という条文でした。
つまり、今回の改正は、(昭和54年法律第4号)の部分が削除されただけのものです。
その意味で、ごく形式的な改正といえます。