定期金債権の消滅時効を規定している民法168条が改正されています。
改正後の民法168条は、以下のとおりです。
1 定期金の債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から10年間行使しないとき
二 前号に規定する各債権を行使することができる時から20年間行使しないとき
2 定期金の債権者は、時効の更新の証拠を得るため、いつでも、その債務者に対して承認書の交付を求めることができる。
以下、解説していきます。
定期金債権とは
168条は、定期金債権について規定しています。
定期金債権とは、定期的に一定の金銭等の支払いを目的とする債権のことです。
例えば、毎月支払われる賃料や、年金、離婚後の養育費は、定期金債権に該当します。
給与も定期金債権に含まれますが、労働法で消滅時効を含め別途規定されていますので、本条が問題になることはまずありません。
定期金債権は、各月に支払われる1つ1つの権利のことではなく、これら債権を生み出す基本的な権利のことを指しています。
各月に支払われる1つ1つの権利のことを支分権といったり、定期給付債権といったりします。
改正前の定期金債権についての規定
定期金債権の消滅時効について、今回の改正前は、168条、169条に規定がありました。
それぞれ以下の条文でした。
168条 1 定期金の債権は、第1回の弁済期から20年間行使しないときは、消滅する。最後の弁済期から10年間行使しないときも、同様とする。
2 定期金の債権者は、時効の中断の証拠を得るため、いつでも、その債務者に対して承認書の交付を求めることができる。
169条 年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、5年間行使しないときは、消滅する。
改正前は、個別の権利を生み出す基本的な権利である定期金債権について、168条1項で以下の消滅時効期間を規定していました。
①第1回の弁済期から20年間行使しないとき
②最後の弁済期から10年間行使しないとき
いずれかの期間の経過により、基本的な権利である定期金債権が消滅することになっていました。
ただし、以下のような問題点がありました。
①については、第1回の弁済期で支払がされた場合、支払後から新たに時効が進行するのか、第2回の弁済期から時効が進行するのか明確ではなく、前者とするのが一般的でしたが、そうすると第2回の弁済期より前に時効が進行するのが妥当ではないのではないか、また債権者が定期金債権の存在を知らないケースもあり得るところ、そのような債権者の認識とは無関係に時効が進行すると債権者にとって酷な結果になるのではないかという点があります。
②については、最後の弁済期以降は、既に発生した個別の債権の消滅時効を問題にすれば良く、個別の債権を生み出す基本的な権利の消滅時効を問題にする意義が無いのではないかという点です。
以上のような問題点があることから、168条1項が実質的な内容を含め改正されています。
2項は、実質的な改正はされずに、そのまま維持されています。
改正前の169条については、個別の支分権(定期給付債権)の消滅時効期間を5年という短期の消滅時効期間を定めていました。
しかし、改正後の166条1項で、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間という消滅時効期間が設定されたことに伴い、わざわざ別に5年の消滅時効期間を設ける意義が乏しいことから、廃止されています。
個別の支分権は、一般の債権と同様に、166条1項の消滅時効期間となります。
改正後の168条について
改正後の168条1項で、基本権である定期金債権の消滅時効期間が以下のように改正されました。
①債権者が定期金債権から生ずる個別の権利を行使することができることを知った時から10年間行使しないとき。
②債権者が定期金債権から生ずる個別の権利を行使することができる時から20年間行使しないとき。
このように、債権者が権利を行使できることを知った時から10年間という債権者の認識を起算点とする消滅時効期間が設けられました。
一般の債権は5年になっているところ、基本的な権利であることから10年間という長期の時効期間になりました。
また、客観的な起算点については、「個別の権利を行使することができる時」から20年という規定になりました。
改正前は、第1回弁済期が起算点でしたが、上記のような問題点があることから、改正になりました。
既に記載しましたが、168条2項は実質的な改正がなく踏襲されています。
改正前の169条の消滅時効は削除されています。ただ、運用に大きな影響はないと思います。
年金の時効
年金は定期金債権ですが、国民年金・厚生年金については、個別の法律で消滅時効の規定があります。
基本権は、権利が発生してから5年を経過したときは、時効によって消滅します(国民年金法、厚生年金保険法)。
ただし、やむを得ない事情により、時効完成前に請求をすることができなかった場合は、その理由を書面で申し立てることで基本権を時効消滅させない取扱いになっているようです。
支分権については、基本的に5年で消滅時効となります。
ただし、平成19年7月7日以降に受給権が発生した年金かどうかで異なりますが、時効消滅させない場合があるようです。
詳細については、年金事務所に問い合わせていただいた方が良いと思います。
経過規定
施行日である令和2年4月1日より前に債権が生じた場合の消滅時効期間は、改正前の規定が適用されます。