民法167条が改正され、全く新しい規定になっています。
改正後の167条について
改正後の民法167条は、以下のとおりです。
人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1項第2号の規定の適用については、同号中「10年間」とあるのは、「20年間」とする。
改正後の167条は、人の生命・身体の侵害による債務不履行に基づく損害賠償請求権について、特別な扱いにすることを規定したものです。
人の生命・身体が侵害されるという重大な権利侵害の損害賠償請求権については、消滅時効期間を長期にし、簡単に消滅時効で権利が消滅することを防ごうとしたのです。
債務不履行と不法行為
人の生命・身体が侵害される場合については、大きく分けて、①契約関係がない者同士の場合と②契約関係がある者同士の場合があります。
交通事故や喧嘩の場合は、①契約関係がない者同士です。
これについては、民法709条以下で規定されている不法行為の条文の適用を受け、167条の適用はありません。
不法行為の消滅時効期間については、民法724条、724条の2で規定されています。
これに対し、医師の手術ミスで患者が死亡した場合や、雇用主の安全配慮義務違反で従業員が怪我を負った場合のように、②契約関係がある場合の債務不履行に基づく損害賠償請求権は、167条の適用を受けます。
改正内容
改正前は、生命・身体の侵害の場合であっても、特別な扱いはなく、債務不履行に基づく損害賠償請求権については、一般の債権と同じように、権利を行使できる時から10年の消滅時効になっていました(改正前の166条1項、167条1項)。
改正後は、本条により、生命・身体の侵害の場合だけ特別に、権利を行使できる時から20年の消滅時効期間に延長になりました。
それ以外の債権は、166条1項2号により、権利を行使できる時から10年の消滅時効となっています。
ただし、今回の改正で加わった「権利を行使することができることを知った時から5年」の消滅時効(166条1項1号)は、一般の債権と同様に維持されています。
したがって、生命・身体の侵害による債務不履行に基づく損害賠償請求権であっても、加害者の存在やその責任の存在がはっきりしている場合については、被害に遭った債務者・遺族がそれらを認識した時点で、その時から5年の経過で消滅時効が成立することになります。
このように、167条は、生命・身体の侵害による債務不履行に基づく損害賠償請求権について、加害者の存在やその責任の所在、事故原因等がはっきりしていない場合に、20年の消滅時効期間になることを規定したものといえます。
不法行為の場合
民法167条は、人の生命・身体の侵害による債務不履行に基づく損害賠償請求権の場合であり、不法行為によって生命・身体が侵害された場合は、別の条文となっています。
ただ、不法行為の場合についても、以下のように、債務不履行とほぼ同様の消滅時効期間となっています。
①被害者等が損害及び加害者を知った時から5年。
②不法行為の時から20年。
改正前の167条
改正前の167条は、以下の条文でした。
1 債権は、10年間行使しないときは、消滅する。
2 債権又は所有権以外の財産権は、20年間行使しないときは、消滅する。
改正前の167条1項は、改正後の166条1項に受け継がれています。
ただ、今回の改正で、権利を行使することができることを知った時から5年の消滅時効が新たに加わっています。
改正前の167条2項は、166条2項にほぼそのまま受け継がれています。
経過規定
改正附則10条4項により、施行日(令和2年4月1日)前に債権が生じた場合の消滅時効期間は、改正前の規定が適用されることになっています。
ですので、改正後の167条が適用されるのは、施行日後に損害賠償請求権が発生した場合になります。
施行日前に損害賠償請求権が発生した場合は、10年の消滅時効となりますので、注意が必要です。