今回の民法改正で、民法161条が改正されています。
改正後の161条
改正後の161条は、以下のとおりです。
時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変のため第147条第1項各号又は第148条第1項各号に掲げる事由に係る手続を行うことができないときは、その障害が消滅した時から3か月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
以下において、この161条について解説していきます。
改正前の161条
改正前の161条は、以下のような規定でした。
時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変のため時効を中断することができないときは、その障害が消滅した時から2週間を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
この規定は、洪水・地震のような天災やテロ・戦争のような有事などの避けることのできない事変により、裁判所や郵便局が休業状態になるなどして、催告・訴訟・強制執行などの時効の中断をする措置をとることができない場合を想定しています。
天災などによって法的措置をとることができないことで、時効の完成が認められてしまうのは不正義のため、そのような状態がなくなってから2週間経過までの間は時効が完成しないという取扱いになっていました。
改正前の裁判例で、賃借していた土地が米軍に十数年にわたり接収されている間に賃借権の消滅時効期間が経過した事案において、161条による時効停止が主張されましたが、認められなかった裁判例があります。
明言はされていませんが、米軍に接収されている間は使用不可能だったとしても、賃借権存在確認の訴訟などにより時効中断する手続をとることは可能であったからだと思われます。
時効の完成猶予への改正
まず、161条については、改正前は時効の停止とされていましたが、改正後は時効の完成猶予に変更されました。
158条、159条、160条などと同様です。
時効の「停止」だと、時効が進行しないと誤解されるという指摘があり、時効の完成猶予の方が名称として適切という意見によるものです。
名称が変わっただけで、内容的な変更はありません。
期間が延びたこと
今回の主たる改正点は、時効の完成猶予の期間が延びたことです。
改正前は、障害が消滅した時から2週間を経過するまででしたが、改正後は、障害が消滅した時から3か月を経過するまでに延長されました。
平成23年3月に発生した東日本大震災のような大規模災害が今後も起こり得ることから、都市機能の回復までに相当長期間かかることも想定され、その場合に回復から2週間という時効の猶予期間は短すぎるという指摘がありました。
また、他の未成年者や夫婦間、相続財産については、障害がなくなってから6か月間の時効完成猶予が認められていることと比較しても、非常に短期間になっていました。
そこで、都市機能の回復、つまり障害の消滅時から3か月間に時効の完成猶予が延長されました。
要件の変更
それから、改正前は、「時効を中断することができないとき」に時効の完成が猶予される旨が規定されていました。
改正後は、「147条1項各号又は148条1項各号に掲げる事由に係る手続を行うことができないとき」に変更されました。
147条1項各号には、①裁判上の請求、②支払督促、③訴え提起前の和解・民事調停・家事調停、④破産手続参加・再生手続参加・更生手続参加という裁判所を利用する手続が規定されています。
148条1項各号は、①強制執行、②担保権の実行、③形式競売、④財産開示手続というこちらも裁判所を利用する手続です。
改正後の161条は、大地震などにより裁判所を利用する法的手続をとることができなくなった場合に、時効の完成猶予になることを規定したものです。
ですので、裁判所は壊滅状態で利用できないが、郵便局は利用できるので150条の催告による時効の完成猶予は可能だとしても、時効の完成猶予は認められることになります。
逆に、裁判所は利用できるが、郵便局は壊滅状態という場合は、上記法的手続をとることができれば、時効の完成猶予は認められないことになると思われます。