民法153条が改正されています。
改正後の153条は、以下の条文になっています。
1 第147条又は第148条の規定による時効の完成猶予又は更新は、完成猶予又は更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
2 第149条から第151条までの規定による時効の完成猶予は、完成猶予の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
3 前条の規定による時効の更新は、更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
以下において、153条について解説します。
改正前の153条について
改正前の153条は、「催告は、6か月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法若しくは家事事件手続法による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。」という規定でした。
この規定は、改正後の153条とは関係ありません。
改正前の153条の規定は、改正後の150条で催告による時効の完成猶予が規定されていることに引き継がれています。
改正後の150条の内容は、改正前の取扱いと実質的に同様となっています。
改正後の153条1項について
改正後の153条1項は、147条・148条に規定されている時効の完成猶予・時効の更新が、当事者・その承継人の間のみで効力が生じると規定しています。
147条で規定されているのは、①裁判上の請求、②支払督促、③訴え提起前の和解・民事調停・家事調停、④破産手続参加・再生手続参加・更生手続参加による時効の完成猶予・時効の更新です。
148条で規定されているのは、①強制執行、②担保権の実行、③形式競売、④財産開示手続による時効の完成猶予・時効の更新です。
これらの手続による時効の完成猶予・時効の更新の効力が、誰と誰との間で生じるかを規定しているのが153条1項です。
なぜ、そのようなことが問題になるかというと、時効については145条で規定されているとおり、特に消滅時効に関し、債務者だけでなく、保証人や物上保証人、第三取得者も時効を援用できることから、時効の完成猶予・時効の更新が全関係者に効力が生じるのか、その一部に止まるのかが重要な問題になるからです。
この点、153条1項は、当事者とその承継人の間のみで効力が生じるとしています。
当事者とは、時効の完成猶予・時効の更新の手続をした者とその相手方です。
その承継人とは、時効の対象になる権利を贈与や売買等で任意に譲り受けた者や相続人のことです。
したがって、時効の完成猶予や時効の更新の手続をとる場合には、原則としてその手続の当事者間でしか効力を生じないことに注意が必要になります。
153条1項の例外について
153条1項には民法上の例外規定があります。
地役権に関する284条2項・292条と保証人に関する457条1項です。
重要なのは、保証人に関する457条1項ですが、主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の完成猶予及び更新は、保証人に対しても、その効力を生ずる旨が規定されています。
よって、主たる債務者に対して時効の完成猶予・時効の更新の手続をとった場合は、保証人に対しても効力が生じることになります。
また、民法以外の法律で、153条1項と異なる特則が規定されています。
これも153条1項の例外ということになります。
手形法71条は、「時効ノ完成猶予又ハ更新ハ其ノ事由ガ生ジタル者ニ対シテノミ其ノ効力ヲ生ズ」と規定しています(手形法は、カタカナ表記が残っています。)。
つまり、民法153条1項は、当事者とその承継人に効力が生じるとなっていますが、手形法71条では当事者のみに効力が生じるとしているのです。
同様の規定は、小切手法でも同様の規定があります。
153条2項について
153条2項は、149条・150条・151条による時効の完成猶予は、完成猶予の事由が生じた当事者及びその承継人にのみ効力を有すると規定しています。
149条は、仮差押え・仮処分による時効の完成猶予です。
150条は、催告による時効の完成猶予です。
151条は、協議を行う旨の合意による時効の完成猶予です。
いずれの手続も時効の完成猶予の効力だけであり、時効の更新の効力はありません。
153条1項は時効の完成猶予と時効の更新双方の効力があるものを規定していましたが、2項は時効の完成猶予のみのものを規定しています。
そして、1項と同様に、時効の完成猶予の効力は、完成猶予の事由が生じた当事者とその承継人のみ効力が認められています。
153条3項について
153条3項は、152条の時効の更新は、更新の事由が生じた当事者及びその承継人にのみ効力を有する旨を規定しています。
152条は、承認による時効の更新を規定しています。
153条3項は、時効の更新のみの効力が認められる承認だけを規定しています。
そして、承認による時効の更新の効力は、更新の事由が生じた当事者とその承継人の間においてのみ効力を認めることが規定されており、この意味は1項、2項と同様です。