遺留分の計算式
遺留分を計算する際、遺留分を算定するための財産の価額を導くのは、「被相続人が
相続開始の時において有した財産の価額+以前被相続人が贈与した財産の価額-債務の全額=遺留分を算定するための財産の価額」という計算式になります。
これに、遺留分割合と法定相続分を乗じると、遺留分の金額を出すことができます。
上記計算式の「以前被相続人が贈与した財産の価額」について、今回の相続法で改正の対象となっています。
改正前の生前贈与の取扱い
改正前の民法1030条では、「贈与は、相続開始の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。」とだけ規定がありました。
さらに、最高裁判決平成10年3月24日は、この改正前の民法1030条は、相続人以外の第三者に対する贈与について適用されるものであり、相続人への生前贈与の場合は時期を問わずに全ての贈与が遺留分を算定するための財産の価額に参入されるのが原則である旨を判示し、これに従って実務が運用されていました。
この点について、何十年も前に行われた生前贈与によって遺留分減殺請求がなされるのは特に相続人以外の受遺者・受贈者にとって予想外の遺留分減殺請求を受けるという不合理な結果があるとされ、相続法改正で変更されることになりました。
10年間の生前贈与に限定される等の改正
改正後の民法1044条1項は、改正前の民法1030条をそのまま受け継いでいます。
新設された1044条3項が、相続人に対する贈与の場合には「1年」を「10年」とする旨を規定することになりました。
したがって、相続人に対する生前贈与は何十年前でも時期を問わずに遺留分を算定するための財産に算入されていたのが、相続開始から10年の生前贈与に限定されることになりました。
この点に関し、相続開始から10年を超えて古い生前贈与を受けていた者が、遺留分侵害額請求をする場合には、10年を超えて古い生前贈与の分も特別受益として遺留分侵害額を計算する際に控除されます。
それは、改正後の1046条2項1号において、遺留分から控除する特別受益について期間を限定しておらず、古い特別受益も控除することを認めているからです。
つまり、10年を超えて古い生前贈与は、誰が受け取ったものでも遺留分を算定するための財産には算入されませんが、遺留分侵害請求をする者が受け取った場合は特別受益として控除された額しか請求できなくなるという計算はされます。
ですので、遺留分侵害請求をする者にとって不利な改正なのです。
例外的に、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、10年より前にしたものについても、遺留分を算定するための財産に算入されます(改正後の1044条1項後段)。
この点は、改正前と変わらないといえます。
加えて、改正後の民法1044条3項において、「価額」は婚姻もしくは養子縁組のためまたは生計の資本として受けた贈与の価額に限る旨が規定されています。
この点については改正前の民法から実質的な変更はないものと思われます。
それは、改正前の民法1044条が903条を遺留分について準用しており、ある程度高額な贈与が対象となっていたからです。
それから、改正後の民法1044条2項は、904条の規定は前項に規定する贈与の価額について準用する旨となっています。
この点についても、改正前の民法1044条が904条を遺留分について準用する旨規定していたため、改正前から実質的な変更はありません。