相続法改正の解説8 [民法1012条1項] 遺言執行者の任務と相続人の利益

遺言執行者の権利義務についての民法1012条

遺言執行者の権利義務に関する民法1012条について、今回の相続法改正において一部改正されています。
ただし、基本的に、これまでの判例の考え方を踏襲するものであり、改正により運用が変わるわけではないと思います。

条文について

改正前の民法1012条1項は、以下のとおりでした。

遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。


改正後の民法1012条1項は、以下のとおりです。

遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。


以下、解説したいと思います。

改正された点

この改正により、「遺言の内容を実現するため、」という言葉が追加されています。

改正前の民法1015条において、「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。」という規定があったため、遺言者と相続人の利害が対立するような遺言があった場合に、遺言執行人は、相続人の利益のために行動するのか、遺言者の意思に忠実に従うのかが争われた裁判例がありました。

最高裁判決

最高裁判決昭和30年5月10日は、遺言執行者の任務は、遺言者の真実の意思を実現するためにある旨を判示して、相続人の利益に反する遺言であっても遺言を実現する職務を行うことができるものとしました。
この事例では、養女について「後を継す事は出来ないから離縁をしたい」とし、一切の財産を別の人に譲る旨の遺言があったものです。
この遺言について、養女について推定相続人の廃除をする旨の遺言として有効とし、遺言執行者が職務として行うことができるものと判示されました。

判例の明確化

今回の改正において、「遺言の内容を実現するため、」という言葉が追加されたのは、このような判例の考え方を明確にしたものであり、遺言執行人は、相続人の利益に反しても遺言者の意思に従う責務があり、遺言内容を実現すれば良いことを明らかにするためのものです。

また、解説⑫で解説しますが、上記民法1015条も改正されています。

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