配偶者居住権の新設
今回の相続法改正において、大きな目玉となっている規定が、配偶者居住権です。
改正前の民法では、配偶者居住権の規定はありませんでした。
改正前の問題
改正前の民法では、以下のようなよくある相続のケースで問題がありました。
それは、配偶者が長年住み続けた自宅を追い出されることになるということです。
例えば、亡くなった男性には、妻と子1人がいたとします。
男性の遺産は、自宅の土地建物(時価2000万円)と預金3000万円があり、自宅に妻が住んでおり、子は別居しています。
相続分は妻が2分の1,子が2分の1です。
このような場合、妻が自宅に住み続けたいとき、妻の相続分は2500万円ですので、妻が自宅全部をもらうと、預金は500万円しか相続できません。
妻が自宅に住み続けようとして自宅を相続でもらうと、預金の相続分が非常に少なくなり、生活費の捻出に苦労することになります。
もし、自宅の時価額が預金額と同額の場合は、自宅を相続すると、預金の相続を全く受けられなくなります。
もっと自宅の時価額が高くて預金額を超える場合は、妻が自宅全部を単独で相続できなくなります。
このように、相続の結果、長年暮らしてきた自宅に住み続けることができなくなる妻が多く出てしまうおそれのある状況でした。
建物使用権の取得
そこで、配偶者居住権という建物使用権を低額で配偶者が取得することができることにし、配偶者が自宅に住み続けることを容易にして、預金等の他の財産も相続しやすくなるようにしたのです。
この配偶者居住権に関する最初の条文が、改正後の民法1028条1項です。
民法1028条1項によると、被相続人の配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始のときに居住していた場合において、次のいずれかの場合、その居住していた建物の全部について無償で使用・収益する権利である配偶者居住権を取得します。
①遺産分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき
②配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき
ただし、被相続人と配偶者以外の者が居住建物の共有持分を取得しているときは、配偶者居住権は認められません。
また、被相続人と配偶者との間の死因贈与契約で、配偶者居住権を取得させることもできます(民法554条)。
家庭裁判所による審判
それから、家庭裁判所は、遺産分割の請求があった場合に、配偶者居住権を以下の場合に認める審判をすることができます(改正後の民法1029条)。
①共同相続人間に配偶者居住権を認めることについて合意が成立しているとき。
②配偶者が配偶者居住権の取得を希望し、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために必要があると認めるとき。
配偶者が生きているかぎり居住できる
配偶者居住権は、配偶者が生きている間はずっと認められるのが原則です(改正後の民法1030条)。
ただし、別段の定めをすることも可能です。
家賃を払う必要はないこと
配偶者居住権は、無償で使用することができる権利であり、家賃を支払う必要がありません。
通常、一定金額で評価されること
上記の遺産が自宅2000万円・預金1000万円というケースで、1000万円と評価される配偶者居住権が認められた場合、妻は配偶者居住権1000万円と預金500万円を取得し、子は配偶者居住権の負担付きの自宅1000万円と預金500万円を取得することになります。
このように、妻は、配偶者居住権が認められることで、生涯自宅に住み続ける権利(家賃なし)を安価に取得することができ、他の遺産も取得しやすくなって、相続で、子より優遇されることになりました。
共有持分の取得、持戻し免除の推定
また、配偶者居住権が成立した後、居住建物の共有持分を配偶者が取得した場合、他の者が共有持分を有するときは、混同の例外として、配偶書居住権は消滅しません(改正後の民法1028条2項)。その方が、配偶者にとって良いからです。
それから、改正後の民法1028条3項により、配偶者居住権についても、持戻し免除の意思表示を推定する改正後の民法903条4項(別の箇所で説明します。)が準用されます。
配偶者居住権が認められる相続
配偶者居住権は、2020年4月1日以後に開始した相続について適用されます。
つまり、被相続人が死去した日が2020年4月1日以降の場合に適用されるものです。
出典:法務省ホームページhttp://www.moj.go.jp/content/001285654.pdf